一般社団法人日本出版者協議会は、言論、出版及び表現の自由、良心の自由を擁護する立場から、このほど国会で公表された「放送法文書」が明らかにした「政治的公平」(放送法4条)に関する政府見解の変更についての事実関係を明らかにすることを政府に要請するとともに、以下に記す放送法の本来の目的を遵守するために放送行政のあり方を検討するよう政府と国会に求めるものである。
このほど、国会で公表され、総務省も行政文書として認めたいわゆる「放送法文書」は「政治的公平」に関する従来の政府見解を官邸主導によって変更を迫った経緯(2014〜2015年)を如実に示すものである。
この文書の内容は、その後の国会における当時の高市早苗総務大臣の放送法に関する発言(2016年2月)に結びつくものである。政府は、従来放送法の「政治的公平」について放送局の番組全体で判断するとの立場だったが、高市大臣は一つの番組だけで判断することもある旨答弁し、違反を繰り返せば電波停止を命じる可能性についてまで言及した。
この文書や高市総務大臣見解が示す「政治的中立」に関する新解釈は、放送局をけん制する意図を持つことは言うまでもない。岸田首相は政府見解は変更していない旨発言しているが、これは明らかに放送法の解釈変更である。当時、高市発言に相前後して、報道番組キャスターらの降板が続いたことは記憶に新しく、政府の規制強化の意図を汲んだ放送局の自主規制以外の何ものでもない。
放送法は、戦争中のラジオ放送が戦争遂行に加担した反省から、「放送の自律」と表現の自由の確保を目的として、日本国憲法の下で制定されたものである。そのことを、同法3条は、放送番組について「何人からも干渉され、又は規律されることがない」とする「放送番組編集の自由」として宣言している。このため、放送の「政治的公平」などを定めた同法4条は、放送事業者が自律的に遵守すべき倫理規定だと一般的に解釈されてきた。
しかし、政府は「政治的公平」の解釈を梃子に放送内容への介入を示唆してきた。そうした動きに忖度する人事異動や番組編成の変更などが、今なお放送局内にあることを憂慮する。
一般社団法人日本出版者協議会は、以上の理由から、政府に対して2016年高市総務大臣答弁の撤回を求めるとともに、放送法の本来の目的である「放送の自律」を確実にするために、放送の許認可など放送行政に関する事項を、政府から独立した委員会に託すよう放送法の改正を国会に求める。
以上
2023年3月24日
一般社団法人 日本出版者協議会
会長 水野 久
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