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利用者目線でみる 国立国会図書館デジタルコレクション(ほんのひとこと)

●編集実務で使ってみる


 過去に2回「ほんのひとこと」で国会図書館(NDL)の電子化や、電子化をめぐる状況について書かせてもらいました。(「著作権法改正は民業を圧迫するか?」「日本研究市場はこのまま縮小するか?~ボストン出張日記~」):今回も近いテーマで、利用者として、編集実務で使ってみて助かったという話です。


 昨年12月に『阿佐ヶ谷歳時記』(松本純著)という本を出しました。阿佐ヶ谷の名酒場の主人が、酒と俳句の日々をつづったエッセイ集です(いい本です、ぜひお読みください!)。著者は故人で、校正や迷った時の判断は編集部で行うしかない状況でした。


 この本は句集や俳書からの引用が多く、時間の都合もあって、引用の付き合わせの一部は社内で行いました。数は記録していませんが、社内で行ったものだけでも50箇所くらいはあった記憶です。雑誌からの引用か単行本からの引用かも不明瞭なものが多々あるうえ、さらに1冊の中でどこに引用作品や文章があるかは資料を捲ってみないとわからないので、まさに時間との闘いでした。国会図書館は単行本は一度に5冊、雑誌は10冊しか出納できませんし……。


 この時、国立国会図書館デジタルコレクション(以下、デジコレ)は大変役に立ちました。作業はこんな手順で行いました。



①引用照合を行うページに付箋をたてておく


②先頭から、作品や引用分の一部をデジコレの全文検索にどんどん叩き込み確認していく。公衆送信可能なものだけ付き合わせ、館内限定閲覧のものはマイリストに保存。そもそもヒットしないものはよりわけておく。ヒットしなかったものは、電子化されていない単行本なので、NDLサーチで所蔵をしらべてマイリストに保存。ここまでは会社内で作業。それからNDLへ行き、


③マイリストに保存していた電子化されていない図書の出納を依頼。


④資料到着を待っている間に、館内限定閲覧の資料を付き合わせていく。書庫から目的の本が出納されたら確認、返却、次の出納依頼。その間にまたデジコレを確認する。これを終わるまで繰り返す。



 結果全体の2/3くらいが全文検索でヒット。該当箇所さえ特定できれば照合はさほど時間がかかるものではありません。これがなかったら3倍は時間がかかっていたと思います。デジコレの進化によって、校正のうちの引用照合における手間はかなり減らすことができると実感しました。小零細版元こそこの機能をもっと使うべきです。時間が短く済むということは、その分人件費が浮き、その単行本の相対的な利益率が上がるということでもあります。



●皓星社は本が電子化されて損をしたか


 では、今回我々がデジコレを活用したことによって、参照された本の版元は損をしたのでしょうか? そうは思えません。引用照合のために、引用されている本を全て買うことなどあり得ません。デジコレがなかったら、時間がかかっても図書の出納を繰り返して付き合わせをしたでしょう。基本的にはデジコレは「読む」ためではなく「引く」ためのものだと実感しました。


 たとえばデジコレの中で、公開されている皓星社の本は18冊あります。電子化対象からの除外の要望はだしていません。これらはいずれも品切重版未定の本で、電子化すれば確かに収入になるかもしれませんが、電子書籍製作費と電子書籍の卸値だけを考えると、優先順位を低くせざるを得ない本です。


もちろん、具体的に復刊予定や電子化の予定があるタイトルは除外申請をすべきです。また、著作権者の権利については守られなくてはいけません。その上で、重版も電子化もせずのままであるよりは「(永田町にすぐに来られる一部の人しか)読めない」、誰得?の状況がなくなった方が良いという考えです。NDLの経費で電子化されるので、版元の支出はありません。「公共の利益」といえば大義名分のようですが、会社に明らかに損害がないならば誰かが一人でも得する状態になったほうがいい、というだけのことです。


 本稿を読んだ方が、皓星社初期の労作を無償でオンラインで見ていただき、現在も流通している関連書を買ってくださる方がいれば……というのは夢物語かもしれませんが、この物価高のなかで割くことのできるお金は一人一人みな限られています。だったら、一定の社会的役割を果たし本は無料で見られる状態を国に作ってもらい、読者には今流通している本にお金を投下してもらったほうが良くはないでしょうか。



●NDLにやってほしいこと、など


 余談ですが、版元にこれらの電子化したデーターと、OCRをかけたテキストをバックするなどのリターンがあれば、むしろ電子化が許諾される本は増えるのではないか……と考えます。版元は、そのデーターを使って、より利便性の高いリフロー型の電子書籍を作ることもできますし。NDLにはそのような施策もぜひ考えてほしいものです。


 また、重版の見通しが立たないが、資料的価値がある本について、むしろ電子化の要望を版元や著者から出してそのことをオープンにし、会社のイメージアップ戦略として使うなどの取り組みも考えられます(本稿もそういう側面がありますね)。NDLにはぜひそのような申請フォームを作ってほしいです(個人がつくった同人誌やミニコミ類などもこの申請によって電子化されることを期待します)。


 事実、雑誌について発行主体からそのような働きかけがあり、公開に向けた手続が進められている事例もあると聞いています。重要なのは図書館も含めた言語の世界(=我々が商売をする土壌)が豊かであることです。



 日本出版者協議会は国会図書館の電子化については厳しい意見を持っている社の方が多いですが、いろいろな会員社・理事社がいたほうが会として健全だという方針で運営されています。 会員社は月1回の理事会の議論にも参加できます。よかったらぜひ入会をご検討ください。



出版協理事 晴山生菜(皓星社




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