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自炊本の転売に疑問を投げかける(ほんのひとこと)

更新日:2022年1月7日



年の始まりから問題提起というのも気が引けますが、疑問を持ったら声に出すのが出版協の役割と考え、この機会に取り上げます。電子書籍化を目的とした「自炊本」がフリマサイト上で転売されている問題についてです。


 事の発端は2021年6月、当社の編集者が、背表紙が裁断され、無残にもバラバラに分解された「かつて本だったもの」が、メルカリ、ヤフオク!といったフリマサイト上で転売されようとしているのを発見したことでした。みなさんもフリマサイト上で「自炊用」というキーワードで検索してみてください。版元の方、おそらく御社の書籍も出てきます。いずれも「スキャナーで読み込むため」「裁断済」「自炊用」といった言葉が商品説明に並んでいます。恐らく出品者が自分自身の利用のために本を裁断し、スキャンして手元にPDFなどの電子データの形式で保存し、用済みになったということで転売することにしたのでしょう。


 まずこれを見て感じたことは、本をバラバラにされたことへの悲しみでしたが、自分の持ち物ですから、壊そうが捨てようが構いません。自分のためだけに複製をするのも法的には問題はありません。しかしこれを転売することは、第三者に対しても複製を助長する行為であり、世の中に次々と複製品が出来上がることにつながりかねません。やがて海賊版が作られ、電子データが違法に販売される温床ともなるかもしれません。一方で音楽用CDが次々と転売され、そのたびに容易に複製が作られうることが容認されていることを考えると、厳密には違法性はなさそうです。しかしいずれにせよ、著者や本を作る人への敬意を欠いた行為と感じ、看過はできませんでした。


 そこで本件について、出版に関する法的問題の駆け込み寺となっている日本ユニ著作権センターに相談したところ、購買等の形で適正に入手した書籍を入手者が販売することは、たとえ裁断をしていたとしても自由であるとの考えから、やはり違法行為とはいえないという見解でした。しかし著作権相談室長の北村行夫弁護士からは、このような行為が法の埒外に置かれている現実によって、著作権保護の制度が害されることは確かだ、とのご指摘もいただきました。


 では、フリマサイトの運営者はどう考えているのでしょうか。上記の北村弁護士の見解も伝えつつ、大手運営会社2社に伺ってみたところ次のような回答でした。念のため会社名は伏せます。A社の場合「弊社の規約やガイド、また法令に該当する商品があった際は、削除等適切に対応させていただきます。問題となる商品があった際は、権利元よりご連絡をいただけますと幸いです。また具体的な対応内容や基準などにつきましては、弊社サービスの運用上、詳細をお伝えいたしかねます」と、特に回答者の氏名も無く、ロボットのような、暖簾に腕押しな印象です。


 一方B社の場合は、担当者名も付記した上で「弊社担当内で検討いたしましたが、いただいた理由をもって弊社のほうで各出品が明確に違法であると判断することが難しい状況です。また、全ての裁断本が違法とは言えないという点から裁断本を一律に禁止するということも弊社といたしましては難しい状況です。しかしながら、海賊版対策という観点につきましては、弊社としましても善良なユーザーに不当な制限をかけないように留意しつつも、健全なコマース環境のためなるべく可能な限り対策を検討したいと考えております」と、A社よりも誠意ある回答に感じました。


 姿勢に差こそあれ、いずれの社もやはり違法性は認めず、手詰まりか。しかし北村弁護士は「裁断済の本がかなり出回っているという現状から、業界全体の問題として考えなければ」として、本件を日本ユニ著作権センターの会報誌「JUCC通信」(第254号、2021年10月発行)や、「JUCC秋季定例セミナー」(2021年10月26日開催)で次のように取り上げてくださいました。


 現在の法の下では違法性を問うことは難しいが、放置すれば著作権者や出版社の被害が拡大する。特に出版社は「自炊者のための複製物提供者」となりかねないため、法改正による対応を考えるべきである。この問題は議員や学者任せの立法の議論であってはならず、「著作権に関わる全ての人が、著作権制度の在り方を考え、より良き制度にするための試練に自ら立ち向かうことである」。


 私はこの言葉を私たち出版社や、著作権に関わる全ての人へのエールと受け止め、この問題をみなさんと共有しようと考えました。本年、皆さんと共に議論を深められることを願っています。最後に、こうした指針を示してくださった北村先生と日本ユニ著作権センターの皆様に感謝いたします。



出版協理事 三芳寛要(パイインターナショナル



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