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著作権法改正は民業を圧迫するか?(ほんのひとこと)

 消費税総額表示問題、物流運賃負担金問題、取次配本中4日問題など、直近数カ月だけでもさまざまなトピックスがありますが、さて、著作権法改正問題です。


 すでに色々な媒体で書かれているので長々と繰り返しません。今回の法改正の要点は以下の2つ。①これまで国会図書館内か、認可された図書館内でしか見られなかったデジタル化資料を各家庭の端末にまで配信可能にするというもの。デジタル化の対象になるのは、市場での入手が困難な「特定絶版等資料」で、絶版等資料(入手困難資料)のうち三カ月以内に復刻等の予定があるものを除いたもの。こちらは補償金ナシ。②これまで図書館の複写物は図書館で現物を渡すか、複写物を郵送するしかできなかったものを、メールやファックス、ダウンロード等を使って提供できるようにするというもの。こちらは補償金アリ。


 両方とも3月5日に閣議決定されました。施行は①が公布から1年以内、②が2年以内。



 色々な受け止め方があり、懸念の声も多く聞かれますが、私は(というか弊社は)今回の法改正、全面的に賛成です。


 なぜかといえば、法改正されても出版の売上には影響は出ないと考えていますし、悪影響がないのであれば、私たちの読者や、読者としての私たちの利便性が高まったほうがより良いからです。今回の著作権法改正については、徹底的に、利用者目線を貫いたほうがいいと思っています。


 ポイントは、出版売上に響くかどうか、に尽きますが、問題ないだろうと見ています。

 まず①入手困難資料について。弊社の刊行物の場合、紙の在庫も電子書籍化もしていないものは、ただ単に電子化が後手に回っているか、コストをかけても回収できない可能性が高いため、手をつけられていないかのどちらかです。前者については徐々に電子化していきますし、後者については、著作権処理までNDL(国立国会図書館)がやってくれるならご自由にどうぞ、という考え方です。 


 ②電子的複写物の提供サービスについては、例えば家族で前後半に分けて複写したら、全部データをとられてしまうのではないか……という懸念の声も聞きましたが、これは紙のコピーも一緒です。それに常識的に考えて、本一冊を丸ごと複写するというのは、入手困難な資料でなければ、あり得ないのではないでしょうか。

 鷹野凌さんがこちらの記事→https://hon.jp/news/1.0/0/30033でも言及されていますが、本一冊をコピーしてもらう料金は、たいてい、その本を買う費用よりも割高です。普通、同等以上の値段なら全文コピーするより本を買うでしょう。


 それでなくても、スキャンやデータ送信に関する人件費、補償金支払いを含めた指定管理団体への対応も、図書館の限られた人手の中でしなければならないとすれば、予算不足と人手不足に苦労している多くの図書館に、民業を圧迫するほどの大規模なスキャンとバラマキができるとは、とうてい考えられません。


 3月5日に公開された条文案では、補償金の具体的な金額までは示されていないものの、文案の段階でかなり細かく指定されていて(図書館側への研修、利用者登録の徹底、DRM(デジタル著作権管理)をかける、等)民業にもかなり配慮されていることがわかります。


 「進め方が速すぎる、拙速だ」という声も聞きますが(日本出版者協議会総会にて)、むしろ今までの対応が、世界標準から見ると周回遅れの周回遅れのさらに周回遅れなのです。コロナでも何でも使える機会は使って、スピード感をもって進めることは、至極真っ当なことではないでしょうか(自分の商売だったらそうします)。今後もこの法改正にかんする文化庁の動きは注視しますし、補償金が不当に低い金額になるようなことがあれば(上記の理由から、そんなことはあり得ないと思うわけですが)その時はその時で、堂々と正面切って抗議すればいいことでしょう。


 と、好き勝手書きましたが、言いたいことはとても単純です。出版社はいい本を作って売るということを、ちゃんと持続すればいいのです。法改正が私たちの出版事業を不当に害するならば戦いますが、今回の改正は、そういう類のものではありません。コロナの中で本当に困っていた現場からの声で、動き始めたものです。そこで「民業圧迫」をお題目に、利用者にとって不便な法律を堅持しようとしても、読者の理解は得られないと思います。もし出版社が立ち行かなくなるとすれば、それは法律のせいでも、図書館のせいでも、ましてや読者のせいでもないでしょう。私は、「コピー? じゃんじゃん取っていいよ。ま、全部読む価値のある本だから、買った方がお得だと思うけどね」というスタンスでいたい。


 そして、自分たちもうんと電子送信サービスを利用して、新しい本を作りたいし、そういうプラス面の方にむしろ興味を惹かれます。


 1月末、「3月号のほんのひとことの当番ですよ(締め切りは2月25日)」というのを「3月25日締め切り」と勘違いし、3月に入ってから大慌てで書き始めました(事務局、ごめんなさい)。ですが、おかげで3月5日の閣議決定にも触れることができました。


 これは弊社の意見であり、日本出版者協議会の会としての意見とは異なることをお断りしておきますが、ここから議論を始めることができたらいいと思っています。黙殺されないことを願って稿を終えます。



出版協理事 晴山生菜(皓星社

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