現在各地で人権問題に対する条例が制定されており、また改定がおこなわれている。都道府県単位や市町村レベルのものもある。人権の対象が全般的であったり、個別であったりもする。最近の例であれば、前者についてはソーシャル・インクルージョンの理念の下制定をした「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」等がある。後者では在日韓国・朝鮮人(法的表現では本邦外出身者の範疇)、被差別部落やしょうがい者などについてのものである。同性婚の認証の条例もできている。
条例の制定といってもその内容は人権を尊重するという宣言的なものから差別の禁止や被害の救済を明記するものまで、幅は相当広いといえる。ここでは在日韓国・朝鮮人に対する差別的言動、ヘイトスピーチを禁止するため条例ではじめて刑事罰・罰金刑(50万円以下)を盛り込んだ「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」(以下川崎市条例)がつくられた背景、その要点をおおまかだが整理をした。
ヘイトスピーチによる深刻な被害が現存するにもかかわらず法的には対処することができない。このような状況に対して4年前に国会で「ヘイトスピーチ規制法」が制定され深刻な被害とその解消の必要性が謳われたが、ヘイトスピーチの禁止規定や制裁規定がないため(いわゆる理念法)その実効性には限界がある。特定の個人に対する誹謗や中傷は脅迫罪、名誉棄損罪で対処できるが「〇〇人は日本から出ていけ」などの不特定の集団に対するそれは現行法では対応ができない。
川崎市条例は表現の自由との関連でその乱用をさせないための方策を盛り込みつつ以下のような規制をもうけた。
ヘイトスピーチがおこなわれる場所や手段を明示し、その対象となる行為を3つに分類している。ヘイトスピーチにあたるかどうかは専門家による第三者機関の判断をふまえて市がおこない、ヘイトスピーチと認定した場合はその行為をやめるように勧告をしてそれでもやめない時は命令、それでもなおおこなわれるときは氏名や団体名を公表し、捜査機関に刑事告訴をするというものである。告発をうけた検察庁は起訴をするかどうか判断をして、起訴をした場合、裁判所が有罪か否かを判断する。
もう少し詳しくみると明示内容は市内の道路、公園や広場などの公共の場で拡声器や看板、プラカードを使ったり、ビラなどをまいたりすることである。分類される行為は①居住する地域から退去させることを扇動し、又は告知する、②生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを扇動し、又は告知する、③人以外のものに例えるなど、著しく侮辱する、ということである。インターネット上のヘイトスピーチに対しては必要な救済を謳うが、刑事罰の対象からは外れている。
補足ながら、インターネット上のヘイトスピーチに対しては昨年の12月大阪市が同市のヘイトスピーチ抑止条例に基づきヘイトスピーチと認定した2件について、それぞれの発信者の氏名を公表した。また、同じく12月ツイッターで名誉を傷つける投稿を繰り返したとして神奈川県迷惑行為防止条例で同県内在住者が川崎区検から略式起訴され、川崎簡裁が罰金30万円の略式命令をだした。迷惑条例での判決は初めてで、このような条例は全国の都道府県で多くあるとのことである。
出版協理事 髙野政司(解放出版社)
Comments