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立ち読みとブックカフェ(ほんのひとこと)

 立ち読みをしている子どもに、怖そうなオヤジさんがこれみよがしのハタキがけで対抗する。昭和の漫画で本屋さんが出てくると、必ずと言っていいほど描かれたものだ。


 もちろん、本を買う場合に立ち読みは必要不可欠と言っていい。立ち寄った書店で偶然目に留まった本。背文字が、装幀が、気になる。オビの惹き句を読み、目次やあとがきをチェックし、意を決してレジに本を持っていく。とりわけ、本の情報が乏しかった昭和の時代は、予備情報なしに書店で初めて本に出会うことが多かったから、ずいぶん立ち読みをした。でも実際にハタキをかけられたことはない。そこは書店のオヤジさんも買うために立ち読みをしているお客なのか、買う気なく立ち読みを決め込んでいるお客なのか、見きわめてハタキをかけていたに違いない。


 平成の時代になって、買いたいと思う本が決まっているならインターネットで検索し、町の書店に行かなくてもネット書店で購入することができるようになった。それでも書店に行くのは、そこには自分にとって未知の本との出会いがあるからだ。買いたい本が決まっていれば、インターネットで情報が得られる。書店で出会う本はその場で吟味し購入するか、吟味できなければ書名を控えて、あとでインターネットで情報を確認し、ネット書店で購入するか、ということになるだろう。だから、書店が、本と出会い、そして“吟味できる”場であることで、ネット書店の利便性と対応するのは必然なのだろう。


 ジュンク堂書店が立ち読みどころか、座り読みスペースを導入した当時は、思い切った試みとしてかなり話題になったが、今ではあちこちの書店で見かけるようになった。買う前の吟味ということではないが、買った本をいち早く読める「ブックカフェ」を店内に併設した書店も増えている。書店に足を向けることなく、ネット書店で本を購入することがあたりまえの時代になる中で、書店の魅力をアピールするためにさまざまな試みが行われることは理解できる。


 昨年末、青山ブックセンター六本木店跡に日販「YOURS BOOK STORE」プロデュースで開店した入場有料の書店「文喫」が話題になった。入場料平日1500円(税別)を払えば時間制限なし、店内に喫茶スペースありで約30000冊の本が読み放題。ここで重要なのは、店内の本が全て「買切り品」だということ。そのことによっていわば「本を買うこともできる私設図書館」的書店として成り立っている。これが「委託品」のままで行われれば、大問題になったはずだ。


 しかし「ブックカフェ」の広がりのなかで出て来ている「まだ買っていない本」を持ち込めるカフェ、あるいは、有料読書スペースという形は「委託品」のまま行われているものが多いようだ。であるなら当然、見過ごせない。先日の理事会でも、この問題を「新刊書店の貸本屋化」として問題提起している、ある出版関係者のツイッターが話題になった。私などは感度が低く今回初めて知ったのだが、もうずいぶん前、「文喫」の開店以前から問題視されていたという。


 「文喫」は好評のようで、それに続く日販「YOURS BOOK STORE」プロデュースの3店目のファミリー向け店舗が11月中旬、三重県四日市市に開店するという。筋の通った試みは大歓迎だ。だが筋の通らない、「委託品」のままで「貸本屋化する新刊書店」も増える可能性がある。書店さんの厳しい現状は充分認識している。でも私たちは書店に本を委託し販売していただいているのであって、「貸本屋さん」に本をお貸ししているわけではない。「ブックカフェ」については個々の実態を把握し、問題があれば筋を通してもらうよう、対策を講じる必要があると考えている。



出版協会長 水野 久(晩成書房

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