ここ数年で、差別に関する法律が、3本成立した。「障害者差別解消法」(2013年成立、2016年施行)、「ヘイトスピーチ解消法」(2016年成立・施行)そして「部落差別解消推進法」(2016年成立・施行)である。前の2本の法律に対して、三番目の「部落差別解消推進法」はメディアで取り上げられる機会が多くなく、あまりよく知られていないのではないかと思う。そこで、この法律を私なりに概略的に説明し、またこの法律に関連した条例の制定や改定の動きを紹介させていただくことにした。ここでいう部落とは、集落という意味での部落ではなく、被差別部落のことである。
この法律は六条からなる。1969年から2002年まで「特別措置法」(名称と内容はいくつかあり、それらを総称している)が施行されていたが、これは部落に対する法律であったのに対して、「部落差別のない社会を実現することを目的」(一条)とした、社会全般に向けた法律である点が大きく違う。
一条は、この法律の目的を掲げる。部落差別が現存することと、差別の解消をまず明記する。実は、この二つをきちんと記した法律は、初めてのことである。また「情報の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」とする本文は、インターネット社会で起きている悪質な差別行為を想定していると思われる。ほかには、国と地方公共団体の責務、相談体制などの必要な施策、基本理念の制定を謳っている。
二条は、一条で上げた基本理念である。日本国憲法が定める三大原則の一つである基本的人権の享有を理念として、「部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう務めることにより」(条文)、部落差別のない社会を実現すると述べる。
三条は、同じく一条で上げた国と地方公共団体の責務を定めている。国は独自の施策に加え地方公共団体への情報提供、指導や助言を行う。地方公共団体は国との役割分担のもと、国やほかの地方公共団体と連携しつつ、その地域の実情に応じた施策を行うように努めることがその主旨である。
四条は、やはり一条で上げた相談体制の充実のための施策である。条文をそのまま引用すれば、「国は、部落差別に関する相談に的確に応ずるための体制の充実を図るものとする。地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、その地域の実情に応じ、部落差別の相談に的確に応ずるための体制の充実を図るよう努めるものとする」と述べる。「相談体制の充実」というように、現在も相談体制はある。代表的なものとして人権擁護員制度がある。しかしながら残念なことに、この制度では相談に対応しきれていない。むしろ人権擁護委員が、差別問題を深刻化させてしまうケースすらあるのが、現状である。
五条は、教育・啓発を行うことである。国と地方公共団体に必要な施策を求めている。近年、とりわけ2000年代以降、教育現場において部落問題に対する教育・啓発があまりなされていないため、知識不足と、無関心が顕著になっている現状から、この条文の重要性は痛感する。
第六条は、部落差別についての実態調査の必要性を述べる。やはり国と地方公共団体に施策を求めている。国レベルでは1993年位以降、実態調査は行われていない。また、一条で取り上げたインターネッの急速な進展で、部落問題に対する誤解や偏見、間違った情報が氾濫し、いろいろな弊害や問題が起きている。このような現状から、ネット上での実態の把握と、それに対する対処は急を要する。
最後に、地方自治体での人権条例の制定や改正の動きを紹介する。都道府県レベルでは、福岡県で「福岡県部落差別の解消推進に関する条例」、奈良県で「奈良県部落差別の解消の推進に関する条例」が成立・施行されている。マスコミでも取り上げられたのでご存知の方も多いかもしれないが、東京都では「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」ができた。ヘイトスピーチ規制と性的少数者への差別を禁止することが謳われているが、この中に部落問題も含まれることが確認されている。
市町村レベルでは、12都県で28市8町1村で制定や改正がなされている。
出版協理事 髙野政司(解放出版社)
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