取次の配本が突然、見本から3週間以上も先になった版元があった。これは前代未聞である。どれだけの版元がこうした状況になったかは、まだ不明ではあるが。これまで確かに幾つかの版元については、配本日の事前登録と予約が行われていたようで、予約の日に見本が出ないと、最悪1か月は配本日が延びると言われていたようである。しかし、これはすべての版元を対象としたものではなく、大手または刊行点数の多い版元に限られていた。こうした状況のなか、なんの事前情報や告知もなく、突然配本日を遅らせるというのは、これまでの取次・版元間の慣行をいっさい無視したものであり、容認できるものではない。これまで通りの日程で(混雑のため1週間ぐらい配本が遅れることはあったが)、流通することを前提に書店さんにも連絡し、また広告などの出稿も考えていた版元もあろう。それらが、いっさい反故になってしまうという、中小版元の経営に直結するような事態を、取次は考慮しなかったことになる。
聞くところによると、今回は取次各社の窓口の判断ではなく、取協からの通告に取次各社が従ったということである。現場の裁量がどれくらい認められていたのかは分からないが、こうした現場の慣行をいっさい無視したやり方、かつ中小版元を切り捨てるようなやり方は、なんなのだろうか。
また、9月の刊行点数並びに配本冊数が、昨年比で、いったいどれだけ増えているのかなど、具体的な説明はない。あるいは、各取次の輸送能力がどれくらい落ち、そのために配本ができないのかなど、いっさいの説明もない。
こうした、事前情報の開示、告知などもなく、また事後の説明もないのでは、中小各版元は取次に協力しようにも、しようがないではないか。新刊配本の業量平準化といっても、具体的に事前予約がこれくらいあり、すでに危ない状態だから、月の前半、あるいは、25日の締め日後に見本・配本をずらして欲しいなど、すべての版元に予め情報を流すべきである。しかも、業量の平準化といっても、事前予約の版元が毎月25日前後に配本を集中しているということで、それらの版元が協力していないのでは、と考えざるを得ない。中小版元だけがその尻ぬぐいをさせられているように思える。どこが主導してもいいのだが、今回の場合は、あまりに段取りが悪すぎるのではないか。
今後、11月からの見本・配本日のJPROでの事前登録が行われるようになるというが、結局は同じように集中するのでは、まったく意味がないように思われる。しかも、45日前というのは、印刷所、製本所の混み具合で数日ずれることなどはあり得るため、中小版元にとってはかなり高いハードルである。1か月配本がずれることもあるというは非常に厳しい。結局、これまでの配本日を、月前半に変更させられるのは、中小版元となるのではないか、これで平準化などなされるのだろうか、集中した場合は、ランダムに配本日の調整を行うのか、あるいは、優先順位があるのかなど、まったく説明も明確な指針も、今の所示されていないまま、実施されようとしている。こうした状況では年度末に向かって、さらに混乱が起こるだけではないだろうか。
一方このような取次の混乱と迷走を笑うかのように、アマゾンとの直取引を行う版元は増え続けているようである。全ての商品を直取引としているかどうかは版元によって違うであろうが。もちろん、こうして新刊配本が先延ばしになるようであれば、ともかくもアマゾンだけでも先に出してしまおうという版元は、ますます増えていくのではないか。これはアマゾンの一人勝ちを助長するものでしかない。書店店頭にない新刊が、アマゾンだけで売られることになるのだから、書店や他のネット書店はやってられない。販売機会さえないのだから。あげく、読者からすれば「アマゾンに出ているのにおたく(書店)になぜないんだ」ということになる。
最近、社会全体の底が割れてしまったような気がするニュースばかりである。場当たり的でも、間違っていようが、法的に問題があろうが、強弁すれば、なんでもアリとなり、それを批判し、押し返すだけの力がマスメディアだけでなく、なくなってきているかに思える。これまで社会全体で共有されていたと思われていた約束事など、なかったかの如くである。
出版界もまた同様に底割れしてしまったのだろうか。個々の版元、編集者、営業担当者、また取次、書店の担当者を見れば、もちろんそんなことはない。苦しい中、さまざまな試みをしているように思う。地道なそうした試みが実を結ぶことを切に願うばかりである。
出版協理事 石田俊二(三元社)
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